創るcollaboration 第ニ回コラボレーション企画
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オーロラの夜の伝説

青木 浩之


 ある北国の貧しい村に住む少年ナギニは、母との二人暮らしであった。ナギニの父は、彼が五歳の時、獲物を追って禁じられた森に入り、二度と戻ってこなかった。
 それ以来ずっと、少年と母は父を待ち続けた。ナギニと母は一生懸命働いたが、薪を買うにも苦労するありさまで、過労から母は病気となってしまった。日に日に弱る母を見て、ナギニは意を決し、オーロラが美しく輝く夜、雪が降りしきる中、禁じられた森へと入っていった。
 すべてが凍りつく真冬の森を病気の母を救うため危険な森を彷徨った。星の輝きだけがナギニの足元を照らしていたが、森へと深く入り込み、とうとう迷ってしまったのだった。
 いつしか吹雪は収まっていた。しかし疲れと寒さから眠くなり、意識を失いかけた。
 その瞬間、パーッと眩しく輝くものが近づいてきた。ハッとするナギニは初めて伝説のユニコーンに出会った。

 太古の昔から、禁じられた森には、真冬、オーロラの夜だけに現れるユニコーンが棲むといわれていた。村人は皆、氷のユニコーンと呼んでいた。
 氷のユニコーンの角は、どんな病気をも治す不思議な力を持っていた。その力を求め、森に入る者もいたが、伝説のユニコーンに出会い、無事に村へと戻る者はなかった。
 純潔で勇猛な氷のユニコーンは、不浄を嫌い、人間の欲を感じると突き刺し、殺してしまうとの言い伝えだった。
 輝く美しいその姿は、ナギニの言葉を一瞬失わせたが、すぐに気がついた。
「もしかして父さん、父さんだよね」
 とナギニは叫んだ。
 氷のユニコーンは、そっと微笑み
「息子よ。よく頑張ったな」
 と心で語りかけてきた。
「なぜ、伝説の氷のユニコーンになったの」と尋ねるナギニに、父は
「禁じられた森で彷徨ううちに、森の精霊と出会ったんだ。精霊は“命を完全に消すことはしないが、今のお前を助けるには、姿かたちを変える術をかけるしかない”と言ったんだ」
 と答えた。
 ナギニは早くその先が聞きたかった。
「そ、それで?」
「精霊の言葉の意味を深く考えることもなく、“いいのか?”の問いかけに、首を縦にふったんだよ。もうすぐ春になる。氷が解ければ、私は姿が無くなる」
 と言って、角で凍った雪をすくい上げた。
「これを母さんに飲ませてやれ。そうすれば、病気は治る。息子よ。さらば」
 と言うと、また眩しく輝き、気が付くとナギニは、村の外れに戻っていた。

 春、いつもと変わりなく草花が咲き、禁じられた森にも若葉が芽吹いた。そして、ナギニの母は完治した。
 あの夜、出会った伝説のユニコーンとは、二度と会えなかったが、ナギニの心の奥深くには、あの夜の出来事がそっとしまわれている。





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