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幸せの粉(ハッピーパウダー)
村瀬 朋子
むかしむかし、天界の女神様は、地球を愛と調和で満たそうと、小さな精霊たちを人間界に送った。
キラキラと物を輝かせる“光の妖精マリリン”は、ある国のお城に舞い降りた。
マリリンは、人間の手の平に乗る位の小さな女の子で、マリンブルーの大きな瞳に、アクアマリンの髪をなびかせ、オレンジ色のシルクのドレスを、身にまとっている。
彼女の頭のてっぺんには、アンテナの様な一本の角がちょこんと生えていて、キラキラ光る物を見つけると、その周りを自由に飛び回り、光り輝く粉を振りまくことができる。
妖精のマリリンは、人間達には姿が見えないが、お城の主である厳格な王様の王冠を、いつも懸命に輝かせていた。
「ダイヤモンドに、サファイヤ! ルビーに、パール! ほらほら、もっと輝いて☆」
宝石が鏤(ちりば)められた、ゴールドの王冠をつけた王様の周りを、マリリンは舞い、光の粉をまき散らす。
恰幅(かっぷく)のいい無口な王様は、そんな事には全く気付かず、豊かな国づくりの事ばかり考えていた。
「王様ったら、宝石のきらめきに興味はないのかしら?」
マリリンは、少しムッとしながら言った。
そんなある日、王様は国の状況を視察するため、お忍びで出かけることになった。
王様の乗った馬車が、森の外れにさしかかる時、王冠の上でうたた寝をしていたマリリンは、馬車の揺れで、外に落っこちてしまった。
「ここは、いったいどこなの?」
森の中に取り残されたマリリンは、半ベソをかきながら、彷徨い歩いた。木や草が生い茂り、野生の動物の鳴き声も聞こえる。
キラキラ輝く物がないと、飛ぶことさえできないマリリンは、何時間も歩いて、森の出口を必死に探した。
日が沈みかけた頃、途方に暮れていると
「おやっ、こんな所に珍しい妖精がいるぞ!」
作業着を着たヒゲもじゃのおじいさんが、声を掛けてきた。
「あ、あなたは、私の姿が見えるのですか?」
マリリンが、驚くと
「ハッハッハ、信じる者には、見えるのじゃ。この森には、沢山の妖精が住んでおるぞ」
そう言って、おじいさんは優しく笑った。
マリリンは迷子になった訳を話し、自給自足で森に住むというおじいさんの家に、今夜泊めてもらう事にした。
おじいさんの話によると、森に住む長老の精霊から、沢山の知恵を授かる事ができるそうだ。
翌朝、おじいさんは、マリリンを森に案内してくれた。
「うわぁ、きれい!」
朝露に濡れた木の葉、鳥たちの美しい鳴き声、色とりどりの草花、それらが、昇ったばかりの太陽の光に照らされ、キラキラと輝いている。
「マリリン、森の妖精たちが見えるかい? 心の目で、光を感じてごらん!」
おじいさんから言われ、マリリンは目をつむり、心の中で美しい光を感じてみた。
再び目を開けると、そこには、背中に羽の付いた妖精たちが、森中を飛び回っていた。
丸みをおびた白いドレスを着たスズランの精、赤いショートパンツが似合うテントウ虫の精、黄色い帽子をかぶったタンポポの精、紫のミニスカートが可愛いスミレの精……。
マリリンは嬉しくて、居ても立ってもいられなくなり、妖精たちに駆け寄り、一緒に森の中を舞い踊った。
「あぁ、幸せ~♪」
マリリンがオレンジ色のドレスを、翻(ひるがえ)すたびに、輝く粉が宙を舞う。
「ワシはやっぱり、王冠に振りまかれる粉より、今、浴びている幸せの粉の方が、好きじゃなぁ」
と、おじいさんは、言った。
「えっ?! ひょっとして、おじいさんは、王様?」
マリリンが声を上げると、作業着を着たヒゲもじゃのおじいさんは、いたずらっ子の様に笑い
「ナイショじゃぞ」と、ウィンクをした。
「わしも今のマリリンのように、この国の民すべてに幸せの粉のほうをまかねば」
そういうと作業服を脱ぎ、付けヒゲをとり、いつも頭上で輝ている王冠を背負っていた袋から取り出して被った。
「マリリンよ、これからはワシの王冠を輝かせるためでなく、民が輝く笑顔を放てるように力を貸してくれんか?」
マリリンは
「はい!」
元気よく答えると、王様の王冠の上に乗り、お城に戻っていった。
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