創るcollaboration 第ニ回コラボレーション企画
019
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赤い角は森に輝く

長井 喜久子


 ここは、深い深い森の奥。いつの頃のことか、誰も知らない年月(とき)の中で、一つの生命が生まれた。それは馬の姿をしていたが、額に一本の長い角が天を突くように生えていて、真っ白なその躯(からだ)は、異様な光を放っていた。
 森に住む動物たちは、この奇怪な生物を警戒し、受け容れようとしなかったが、火の妖精ホロと水の妖精ナルは、この生物に“タルカス”という名前をつけ、かわいがった。

 ある日タルカスは、森に〈邪悪なもの〉が近づいて来るのを、察知する。
「ホロ! ナル! 皆を避難させなければいけない。森に危険が迫っている!」
 妖精であるホロとナルには、それが人間のことだとすぐに解った。
 二人から人間の恐ろしさを教わったタルカスは、自分を了知している森の長老の梟に、全てを話し懇願した。
「今、森にいる皆を一つにまとめられるのは、あなただけです。皆を避難させる間、私と妖精たちで、人間の進行を食い止めます」
 梟は、タルカスの真っ直ぐに見つめるその目に納得し、動物たちの安全を約束した。

 ザッザッザッザッ、
 ザッザッザッザッ。

 人間は一団となって、手に銃を、心に邪念を携えて、一歩一歩森に近づいて来る。
 タルカスは遥か前方を見据えて、仁王立ちとなった。ホロは炎の塊と化し、ナルは両の手に水の玉を作り、二人もタルカスと共に息を潜め、その時に備えた。

 ダダーン、
 ダダーン。

 銃の音だ。
 邪念は増々大きくなり、森を覆っていく。

 人間は無造作に森に分け入り、タルカスたちと対峙した。
 初めて見るタルカスの美しい姿に、驚嘆した人間は、タルカスを生け捕りにして、飼い慣らすことを考え、取り囲んだ。それに怒りを覚えたタルカスは、長い角で人間を一突きにしようと身構えた。
 タルカスの思いに気付いたホロとナルは、互いに顔を見合わせ、頷き、こう言った。
「タルカス、人間を殺してはいけないよ。そんなことをすれば、人間と同じになる」
「その角は、そんなことのためにあるんじゃない。もっと違った使い方があるんだ」
 こう告げると、ホロが幻火を起こし、人間を木の根元に追いやると、ナルが水の縄で縛りあげた。
「さぁ、タルカス。その角で人間を邪念から解放するんだ」
 二人の言葉にタルカスは、戸惑いながらも、今度は慈しみの心で、角を人間に向けた。
 すると、角は見る間に赤くなり、煌々と輝き出した。輝きは森を照らし、驚愕する人間を包み込むと光の玉となった。玉の中から黒い〈もや〉が現われ出て、そのまますうっ、と消え、やがて光の玉も消え失せた。
 それは人間の邪念だったのか……。
 我に返った人間は、自分たちに何が起こったのか解らず、足早に森から去っていった。
 タルカスは、ホロとナルに感謝した。
「有難う、ホロ、ナル。これから私が森のために出来ることが、少し見えた気がする」

 こうして森を救ったタルカスは、森に住む動物たちにも迎えられ、日々平穏に暮らした。
 平和な暮らしの中で、誰が言うともなくタルカスのことを、愛の戦士・ユニコーン(一本の角)、と呼ぶようになった。





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