022
3つの願い
青希 佳音
杏(あん)は父が日本人、母はドイツ人のハーフ。高校一年生の美人。だから男の子に持てた。しかし額に500円玉位のあざがあった。
仲良しの湧子(ゆうこ)とルミとおしゃべりをするのが楽しみの一つだった。今日も学校帰りのカフェでルミが
「ねえねえ、杏っていつも引っ込み思案で男の子が言い寄って来ているのに、何か控えめで一歩引いているよね」
「私だったら、もっと堂々としてジャンジャン付き合うけどね」と湧子(ゆうこ)。
友人達は杏のどこか憂いを含んだ表情や控えめな接し方をはがゆく思っていた。
ある満月の夜、杏の額のあざからニョキニョキと10cm位の角が生え出した。すると、穏やかな心に染み入るような温かい声がした、
「人のための願い事を3つ叶えてあげよう」と。
そこで杏は仲良しの「湧子(ゆうこ)に素敵な男性が現れる様に」と願った。するとどうだろう、額の角が半分位に短くなったのだ。
びっくりした杏は、2つ目の願いを唱えた。
「ルミにも幸せがやって来きます様に」と。
何と、又もや杏の角が短くなって、なくなってしまった。人の幸せを願っただけなのにと、杏は楽しくなって、思わず3つ目の願いに、育ててくれた両親の幸せを願った。
うすうす感じていた事があった。杏の産みの母は他にいるのではないかと。すると何処からともなく、又あの不思議な声がまるで天の声の様に聞こえて来だした。
「お前さんはハンブルクで赤ちゃん(注1)ポストに入れられていたのだよ。そこから今の両親が養子縁組をしてくれたのだ。一生懸命愛情を注いで育ててくれたのだよ。大事にしなさいね」と。
天の声は続けて言った。
「君の産みの母さんはとても優秀な霊能者だった。額のあざは、強い念力が、授かっている証なのだから、大切にしなさい。きっと貴方の役に立つ時が来るからね。笑顔を忘れず、明るくしなさい」と。
その時杏は夢か現(うつつ)かわからず、ベッドに寝ていた様にも思えるし、映画の一シーンを見ていた様にも思えた。
杏は、夢み心地で、今までの心の中のもやもやが、ベールをはがす様に薄れて行くのを感じるのだった。
「そうだ、このあざに劣等感を感じず、これを活かすお化粧をして、私の個性にしよう。将来はメイクアーチストになろう」と、強い決心をした。
※注1※ 赤ちゃんポスト……産まれて来る事が、望まれない赤ちゃんを殺害と中絶から守るために設置されたシステム。ハンブルグで2000年から始まり日本でも2007年から始まっている。
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