創るcollaboration 第ニ回コラボレーション企画
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陽だまりのコロネ

島村 綾


「君たち、そろそろ降りてくれないか」
 白い馬のコロネは、自分の身体に乗って遊ぶ三匹の子猫たちに呼びかけた。
「やだ~」
「もっと遊ぶ!」
「おなかすいた」
 白い三匹の最近のお気に入りは、コロネの額から生える長い一本の角に昇って、背中へ滑り降りる遊びだ。

 三か月前、コロネが森を走って住処(すみか)のある谷へ戻るといつの間にやら、脚や尻尾や鬣(たてがみ)に、弱った三匹の子猫がしがみついていた。
 仲間の馬達は小さなお客を鼻先でつついたり、額の角でくすぐったり、舐めたりして歓迎した。だが子猫達は黒くて大きな馬達に怯え、自分達と同じ白い身体で、まだ仔馬のコロネから離れようとしなかった。

 三か月が経ち、兄弟らしき三匹の子猫は元気になったが、相変わらずコロネ以外の馬には寄り付かない。
 ある日コロネと子猫達は、浜辺でかくれんぼをして遊んでいた。ちょこまかと隠れ回る三兄弟を、コロネは探して走り回る。ふと気配を感じて振り返ると、頭と口の周りにだけ毛の生えた、二本足で歩く尻尾のない生き物が二匹、まっすぐコロネに向かってやって来た。
「いたぞ、伝説の一角獣だ! 三か月前に森で見かけたときは、目を疑った。ここはユニコーンの谷なんだ!」
「本当に存在したのか。命がけでこんな世界の果てまで来た甲斐があったぜ」
 岩陰から覗いていた三兄弟は、二本足を見て恐怖に震えていた。三か月前、森で暮らしていた三兄弟と母親の前に突然この二本足が現れ、純白の毛並みの美しい母猫を殺したのだ。母が命をかけて逃がした子猫達は、森を駆けるコロネと出会った。そして今コロネの首に縄が掛けられ、連れ去られようとしている。
 意を決した三兄弟は、二本足達に向かって飛び掛かった。だが二本足は容易(たやす)く子猫を払いのけ、持っていた鉄の筒を向けた。轟音が鳴り響き、驚いた子猫達はその場から一目散に逃げ出した。
 その瞬間、コロネは二本足が敵だと分かり、暴れて抵抗した。
「ちくしょう、手こずらせやがって! 仕方ねえ、生け捕りは諦めるか……」
「ちょっと待て、何だこの地響きは?」
 辺りを伺う二本足達の目に、地鳴りの正体が映った。遠くから何十頭ものユニコーンが、怒涛のように走って来る。子猫の三兄弟が、コロネの為に仲間達の助けを呼んだのだ。
 ユニコーン達は逃げ惑う二本足達を、容赦無く追い回し、踏みつけ、角で刺した挙句、海に落として追い払った。

「君たち、ぼくは塒(ねぐら)に戻るからね」
 大きくなった三兄弟は、ユニコーン達の背中を飛び石にして渡る遊びが、最近気に入っている。
 しかしどんなに遠くへ行っても、コロネの一声でその温かい背中に帰る。揺られながら眠りに落ちた三兄弟は、夢の世界でも元気いっぱいに遊んでいた。





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