創るcollaboration 第三回コラボレーション企画
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サンクチュアリ(聖域)

村瀬 朋子


 とりたてて、人に話す程ではないが、何故か気になっていた事が、ある。
 私は、物心ついた小学生低学年の頃から、洗濯機の中で回転する、水流の渦巻きを目にすると、しばらく見入ってしまう癖がある。
 当時、昭和五〇年代始めの洗濯機は、洗濯槽と脱水槽からなる二層式が、主だった。
 我が家の洗濯機は、ベランダに置かれ、毎朝、年子の弟は、お風呂の残り湯をバケツに入れて、洗濯機まで運ぶ手伝いをしていた。
 渦を発生させる為の『ゴォォォ~』という機械的な音と『ジャブジャブ』という水しぶきの音が、どの家庭からも聞こえていた。
 大きな音を立てる洗濯機は、それなりの存在感があったのだろう。
 子供の私は、洗濯槽の渦巻きをよく見ていた。
 何故、見ていたのかわからない。不思議と引き寄せられるのだ。
 無心になり、見ていて飽きないらしい。
 高校卒業後、親元を離れ、一人暮らしを始めた時も、洗濯槽の渦巻きを眺めた。
 ヘコむことがあっても、洗浄される衣服と共に、心までリセットされる気持ちになるのだ。

 時代が平成に移ると、ボタン一つで、洗い、すすぎ、脱水まで出来る、夢のような全自動洗濯機が主流になった。
 そんな私も結婚を機に、全自動洗濯機を購入した。
 しかし、洗濯槽の渦巻き見たさに、フタを開けたまま、運転させてしまう。なので、途中で必ず『ピーピー』と警告音が鳴り、フタを閉めに行かねばならなかった。
 それでも、自分の目で、洗濯物が渦に巻かれる所を見て、ゴォーと回転する音を聞くと、安心した。
 四三年間、私の洗濯機遍歴は、六台である。
 ドラム式洗濯機に、替えた現在は、フタが横向きで、水流こそ渦を巻かないが、洗濯物達がひたすら、でんぐり返しをし、渦巻きを作っている。ぐるぐる、ぐるぐるーー

 私が小学生の頃、家にあった洗濯機の商品名は、たしか〝ニュー銀河〟だった。
 洗濯槽にできる渦を、銀河系宇宙の渦巻き模様に、なぞらえたネーミングなのだろう。
 だとすると、私は洗濯槽の中の小宇宙に惹かれ、渦を見入っていたのだろうか。
 色んな物が、無秩序に交ざり合い、一つの渦になっていく。
 渦の中心からは、目に見えない、何かを生み出すエネルギーが涌き出て、幼い私は、それに反応したのかも……
 いずれにせよ、洗濯機は、人が身に付ける物の汚れを落とし、清めてくれる浄化マシーンには間違いない。
 そこに、渦巻きエネルギーがみなぎれば、洗濯機そのものが、神聖なパワースポットになるのではないか!
 話が飛躍しすぎたが、とりあえず、今から我が家の洗濯機に、日頃の感謝の気持ちを込めて、キレイに水拭きでもしようと思う。





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