創るcollaboration 第三回コラボレーション企画


写真1 写真2

拡大写真
007

変わらないもの

西村 万里子


 去年の夏は一日に四回まわすことも珍しくなかった洗濯機。今年は二、三日に一度ですむことも多かった。家族が半減したからだ。四月に息子が東京へ転勤し、娘は六月に結婚。二人とも家を出て、二三年ぶりに夫と二人の生活に戻った。

 四人家族だった時には、息子の洗濯物が一番多かった。きれい好きの息子は、まめに下着を替える。週末には一週間分のワイシャツと、下着類が洗濯機の上に山積みに置いてある。還暦祝いみたいな真っ赤なパンツは、勝負パンツなのか。ショックだった。洗濯物に、トレーナーやジーパンなどがあると、三本の物干し竿では足りず、一人暮らしのお隣さんの物干しを借りたいくらいだった。
 手間のかかったのは、ワイシャツの洗濯。夫のとは違い、息子のワイシャツの襟汚れは、歯ブラシ・漂白剤・石鹸・中性洗剤など、あらゆる物を駆使して丁寧に洗った。もうそんな面倒なこともしなくてよい。アイロンあてもなくなり楽になった。
 息子は初めての一人暮らし。少しは親の有難味が分かるかと思いきや、東京の暮らしを満喫していて、当分帰るつもりはなさそう。若いうちは何事も経験。それも良しとしよう。

 私が嫁入り道具に持ってきた洗濯機は、森英恵デザインで蝶が飛んでいた。ところが新婚の時に壊してしまった。布を染めようと熱湯を入れたら故障したのだ。注意書きに熱湯はだめとあったが気付かず、後の祭り。もったいないことをした。その後また買い替え、今の洗濯機で三台目。容量は七キロ。次に買う時は、もっと少ない容量ので充分だ。
 娘の洗濯機は、最新式で乾燥機付きのドラム型。大型で場所も取るし使いにくそうに思うが、少ない水ですみ、出し入れもラクらしい。時代が変わり、随分と便利になった。

 先日、何気なく携帯メール履歴を見ていたら、息子の「ごはんいらん」の一言メールを見つけた。そう言えば、以前は毎日こんなメールが来ていたのだ。懐かしかった。
 娘が近くに住んでいて毎日来るので、寂しくはないけれど、息子の優しさはまた別物。
 東京へ旅発つ日、私に見せた優しい目を思い出す時、息子への思いがつのる。
 洗濯機は時と共に進化するが、母親の息子への思いは、いつの時代にも変わらず、哀しくもあり、嬉しくもある。あの子に会いたいなあ……。今日あたり、電話をしてみようか。あのぶっきらぼうな「なんや?」という声が聞こえた気がした。





■ 第3回コンテンツに戻る ■



第一回CONTENTS
第二回CONTENTS
第三回CONTENTS
第四回CONTENTS
第五回CONTENTS