創るcollaboration 第三回コラボレーション企画


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未来のテレビと蚤の心臓

こづか まやこ


 世の中には、「見ていなくても、とりあえずテレビは点けておく」という人が結構いる。曰く、「部屋がシンとしてると淋しいから」「人の声がすると安心するから」。

 私だって一人暮らしだ、気持ちはわかる。
 けれど私は、何かに気を取られると、他のことがまるで手につかなくなる質(たち)だ。特にテレビはいけない。画面に目が釘付けになり、つまらないと思いながらもズルズル見続けて、やるべきことが全て後回しになってしまう。
 だから必要最低限しか見ないと決め、二年前に一人暮らしを始めて半年ほどは、テレビなしで過ごした。ニュースぐらいは携帯電話のワンセグと、インターネットで十分だ。好きな芸能人もいないし、毎週欠かさず観ている番組もない。別に困らなかった。

 しかし、必要に迫られてテレビを買う時が、ついにやって来た。過去に夢中になった、とあるテレビドラマの続編が、放送されると知ったからだ。
 いざそうなると、反動なのか見栄なのか。どうしても、キラキラと精彩を放つ最新モデルが欲しくなり、分不相応と思いつつも、買ってしまった。

 お目当てのドラマが始まる、まさにその当日、テレビは家にやって来た。一応、説明書に目を通し、あれこれいじってみる。おお、さすが最新式のテレビはすごい、こんなに機能があるなんて。私は感心しきりだった。

 さて数時間後。
 テレビのことはひとまず忘れ、私はご機嫌で家事をしていた。すると突然、リモコンに触りもしないのに、勝手にテレビが点いた。静寂の中、いきなり割り込んで来た音と光に驚いて、心臓が縮み上がる。てっきり心霊現象だと思った私は、鳥肌を立ててその場に凍りついた。しかし、やがて原因を思い出し、一気に脱力する。
 そうだ、自分で設定したんだった……。

 見たい番組をうっかり見逃さないための、「視聴予約」という素晴らしい機能。気が散るのが嫌でテレビを点けっぱなしにできない、私のような奴にもってこいだと、あんなに感動しておいて忘れるとは。テレビがどんどん賢くなるのに、人間がついて行っていない。

 その後も私はテレビが自動で点く度に、いちいちびっくりして飛び上がった。そして、この機能はもう使うまいと決めた。心臓に悪すぎるからだ。
 そう、私は気が小さい。その上とても忘れっぽい。こんな私が順応できるのだろうか、進化し続けるハイテク家電に。

 テレビは薄型化がさらに進み、インターネットやデータベースに繋がるのが普通になるらしい。いつか誰もいない部屋で「マヤコさん、いつものドラマが始まりますよ」などと急に声をかけられ、壁の一部に人影が映ったりしたら……。
 ブルブル、何と恐ろしい。最新式はもうこりごり。今度買い替える時はきっと、安くてお得な型落ちにしようと思う。





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