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野田 時々

野田 時々
1946年生まれ

015

《エッセイ》

億三つな私

 私は現在67歳、一人者の年金生活者だ。でも、一人で生きているわけではない。一年365日中、一日二度外出もあるから366日お出かけしている。
 家にいると、食べるか、寝るか、だからだ。その結果、際限なく体重が増加する。それは困る。
 元々小さいころから、とても太っていた。それを友人の勧めで、スポーツジムに通いだした。痩せるということは考えられない。筋肉を付けたいと思った。痩せるのは無理だと感じていた。途中から太ったわけではない。子供の時から、順調に体重増加をしている。
 人間ドックに入っても、体重以外のすべては平均値にあった。問題はなかった。

 あるとき旅先で、前述の友人が朝起き抜けに、ベッドの端に足を引っかけ、腹筋を50回やった。目と口をあんぐり開けている私に「やってみたら」と、勧めた。トライしてみたら、1回もできなかった。「毎日やっているとできるようになるわよ」と、友人は慰め顔で言った。それから3か月間トライしてみたが、やはり、1回もできなかった。
 そこでジムに通うことになった。プロが教えてくれる通り、やっていると、腹筋が少しできるようになってきた。毎日ほんの軽い負荷で筋トレをやった。ひと月500グラムずつ体重が減少してきた。増減はあるのだが、5年間で20キロ近く痩せた。
 そこが底で、現在はそのころより2キロ増だ。私の生涯で今が成長期を除き最も体重が少ないと言える。ジムに行くのは楽しい仕事だ。

 30歳の時、会社の同僚とギリシャに旅行した。レストランの調理場をのぞくと、油の入った大鍋がひとつあるだけだ。なんでもその大鍋に放り込んで調理していた。あまりにも驚いたので、それを旅行雑誌に投稿した。佳作に入って、1万円もらった。賞金を母にプレゼントすると、ものすごく喜んだ。
 こんなに喜んでくれるならと時々書いて投稿をした。それからはほんのたまに図書券がもらえるくらいだ。

 本格的に書こうと思ったのは、会社をリストラされて、再就職支援会社でお世話になっていた時だ。担当者が、文章教室の事を教えてくれたのが、きっかけだ。
 小説を書くというのは大ウソつきになれるという醍醐味がある。極悪人でも、善人でも、筋トレをしなくてもスレンダーな美人にさえなれる。時代もゆうゆう越えて行ける、罪悪感なしで千三つ(※注 せんみつ)どころか、万三つ、いや億三つにさえなれるところだ。
 最近そんな世界が楽しくてならなくなってきた。「次はどんな風に」と筋トレをしながら、頭の中で文章をつづっている。
 こいつはやめられねえ、億三つの世界だ。

※注 千三つ(せんみつ)
 嘘つきの事、千のうち本当の事は三つしか言わないの意味。





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