創るcollaboration 第ニ回コラボレーション企画
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母との遭遇

青希 佳音


 成人式を迎えた仁角(じんかく)は、大学には行かず北海道の雪山で、救護班のアルバトをしていた。
 机に向かって、何かをするより、体を動かしている方が性格(しょう)に合っていると思い、あっさり大学への道を選ばなかったのだ。
 しかし、生来のあまのじゃくで、先輩の言う事もなかなか素直に聞けないで、あまり皆に好かれているとは思えなかった。

 昨日先輩に注意された事が無性に腹が立っていた。丁度休みの日でもあったので、一人憂さ晴らしに山の頂上へと、リフトを使って昇って行った。
 スキーヤー達が通る道ではなく、新雪の誰も踏み入れていない、ふかふかの雪。のめりこまない様に、そりの先を少し浮かし気味に、操りながら片栗粉の様な感触の雪を楽しんで、奥深く進んで行くと、今まで見た事もない様な小屋が突然現れた。
〈誰か住んでいるのだろうか?〉
 興味が湧き、中を覗くと綺麗な女性が一人、暖炉の前で本を読んでいた。仁角は、勇気を出してドアを叩いてみた。
「すみません、道に迷ったのですが、水をいただけないでしょうか?」
 何故こんな事が言えたのか、自分でも不思議だった。
「どうぞ、お入り下さい」
 その女は、警戒する様子もなく、仁角を受け入れてくれた。
「迷ったとは言え、まあ、こんな所までよく来られましたね」
 仁角には、歓迎してくれる様にも感じられた。
「さあ、こちらにどうぞ」
 女は手招きして、暖炉の前に来るように勧めた。
 暖かい部屋で、仁角の体はジンジンと痺れる様に温まり出した。コップの水をぐいっと飲み干し、ほっと一息ついた。

〈なんと美しい人だろう〉
 見とれている仁角に、その女は微笑みかけて
「もっと素直になれば、楽になるのにねえ」
 と言うのだ。
「ええ?」
 仁角は思わず聞き返した。
「とんがって、とんがって、疲れるでしょう?」
 と微笑んだ。
 まるで母に会った様な錯覚に陥った。母の顔は覚えていない。生まれてすぐに亡くなったと聞かされている。
 その女は、微笑を絶やさずに
「命を大切にする為にも、素直になって、温かい家庭を築いて下さいね」
 優し気なその言葉はまるで光のシャワーの様に、仁角をすっぽり包んだ。
 仁角はいつもおでこに、まるで一本の角をはやしているかの如く、周りにツンツンと尖らかせて、生きて来た事を素直に反省した。

 ベッドの中で
〈あれ? あれは幻覚だったのかな?〉
 仁角は目をこすった。あれは
 〈きっと母の化身だったのだ〉
 大きな伸びをして、カーテンを開けた。
 外は今日も真っ白な銀世界だった。





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