001
ササユリと手話
野田 時々
ウォーキングに何回か参加していると、いつしか知り合いができてくる。前回も来られたなとか、前々回はお見かけしなかったとかだ。お名前は存じ上げないが、なんとはなく、近しく感じるようになる。
その中に60歳位の小柄な聾唖の方がいる。私は手話を習い始めた知り合いに、たまたま「お早う、こんにちは」だけ教えてもらっていた。そこで聾唖者だとわかったとき、たった2つの手話を使った。怪しげではあったが、彼はすぐ手話で挨拶を返してくれた。
今年6月「ササユリを探して」というタイトルの付いた全長16キロの初心者ではすこしきついかもしれない東六甲を巡るウォーキングに参加した。
ササユリは日本原種の薄い桃色をしたユリだ。中部地方から九州に自生している。近年、森や里山の減少とともにササユリを見かけることが少なくなってきた。
葉っぱが笹に似ているのでササユリという名が付いたらしい。
芦屋市苦楽園から、ササユリを見つけながら芦屋奥池を目指して歩いていく、きつい上りが続いている。だいぶくたびれかけたとき、スタッフの方が可憐な薄桃色の一輪をゆびさした。ササユリだ。急に元気回復、ササユリ効果だ、そのあと2回、計三輪教えてもらい到着。そこで聾唖の知人と出くわした。
デジカメを取り出し、ササユリが一輪写っているのを見せた。するとどうだろう、彼はにこっと笑った。
「ん?」私の頭はクエスチョンマークで一杯になった。
彼は同じくデジカメを取り出し、
「どうだ、二輪写っているだろう」と、得意満面に差し出した。
水戸黄門の印籠の場面を思わせる顔だ。
「え、二輪のササユリが咲いていたの、どこ?」と、聞こうとしたが、「どこ?」の手話は知らない。残念だ。
前日の雨のせいで、渡河できない箇所がある。リーダーがその旨説明の後、同じ道で下山することを全員に告げた。
下り始めてすぐ、二輪花を付けているササユリに出くわした。こんなところに咲いていたのか。疲れて目の前にあっても、気が付かなかったのだろう。
「ラッキー」と、デジカメに収めた。
聾唖者と言葉が通じないと思わず接すれば、分かり合えるものだ。
手話で「どこと、ありがとう」を教えてもらおう。
|