創るcollaboration 第三回コラボレーション企画


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魔法の白い箱

青木 浩之


 子どもの頃、つい扉を開けて中を覗いたのが冷蔵庫であった。
 開けた瞬間のひんやりとした冷気、夏の暑いとき、あの一瞬の清涼感がたまらなく好きだった。
 よく冷蔵庫の中へ頭を突っ込み母に叱られた記憶が今も残る。

 何よりも冷蔵庫の中には、いつもお腹を満たす美味しいものが入っている期待があった。
 ジュースやアイスクリーム、時には「え! 何これ」と思いもよらないようなケーキやシュークリームがあったりもした。
 その時の嬉しかったことと言えば本当に踊るような気持ちだった。
 しかし、それは大抵お客さん用であり、ガッカリしたが、母は、私達子どもの分もちゃんと取っておいてくれた。

 私にとって冷蔵庫の中は、まさに魔法の白い箱、今でいうドラえもんのポケットのような気がした。

 そのせいか、五十歳を過ぎた今でも、何もないのに、つい冷蔵庫を開ける癖が付いてしまっている。
 今は子どもの頃の期待感と違って、何となく「何かないかなぁ-」程度のものであるが、つい中を覗いて見たくなるのが、何んとも不思議である。

 ある日、新しい冷蔵庫が入ってきた。
 これで何代目の冷蔵庫であろうか?
 冷蔵庫が壊れるときはいつも決まって中が冷えなくなり、ブーンと音が鳴ることが多かった。

 私はもっと大きなものがほしかったが、スペースを考えるとあまり大きなものは買えなかった。
 最近の冷蔵庫は、子どもにとって中が見えにくい。昔と比べると形が大きくなり、背が高くなったせいもある。
 冷凍室や野菜などのチルド室が下にあって、プリンやジュースなどは上の保冷室となっている場合が多い。

 近頃は、冷蔵庫の中を覗く子どもなど、あまりいないのかもしれない。私は少し残念な気がする。

 物が豊かになって、近くにコンビニなどがある今では、それが冷蔵庫の代わりとなり、いつでも好きな時に好きなものを買えるので、冷蔵庫もあまり必要ではなくなったのかもしれない。
 これも時の移り変わりだろうか。
 そう思うと子ども達は、心の振えというか、小さな感動も無くなったのではと大変気になる。

 さて、新しい冷蔵庫であるが、冷蔵・保冷室は、私にとって、ちょうどいい高さにあって何が入っているかよく見渡せる。
「冷蔵庫はこうでなくっちゃ」と心の中で思いながら、ついつい中に何が入っているのか。またも時々確認する自分が可笑しかった。

 きっと、白い扉を開けて中を見る癖は、一生直らないのかもしれない。

 それは私にとっての白い魔法の箱であり、冷蔵庫が無くならない限り続くと思う。





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