創るcollaboration 第三回コラボレーション企画
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貰われていったあの子

青希 佳音


 秋が忍び寄ってきたらしく、庭の虫の音を聞きながらふと思った。

 生来掃除嫌いな私である。しかし家庭の中でも、人と共有で使う所は、迷惑の掛らない様に、整理整頓を心がけている。でも自分の部屋ときたら、やたら散らかっている。床に埃が溜まろうものなら、その埃を取るのに、手が汚れると思って、風を立てない様にそっとしている。手を汚さない様にと言う綺麗好きなのか、ずぼらなのか自分でも分からない。

 今はやりのルンバと言う名の、ロボット掃除機を買った。その日から誠実な、私の執事になった。ルンバ君は黙々と隅から隅まで時間をかけて穿き整えてくれる真面目な奴だ。
 電池が無くなると、自分で車庫(充電できる出発点)へ戻り、エネルギーを蓄える。
 玄関のドアーを開けていると、バリヤフリーのため外まで出て行って丹念に道路の掃除をし出したりする。
「おいおい。ルンバ君、そこまでしなくてええのよ」と元へ戻したことさえあった。
 そんなルンバ君だが、少し面倒な事もある。彼が働き易いように、床には物を置かない様にする必要があった。又留守中に、カーテンにひっかかった彼は、私が帰るまで、同じ所を穿き続けていた。しかし愚痴一つ言わない働き者は、優れもので、かけがえのない家来だ。
 でも人間って勝手なもので、便利を感じていたのは束の間。床を整えると言う煩わしさや、トイレ、換気扇の掃除等からも解放されたくなった。何を始末しても一週間に一度の掃除を、ダスキンに頼むようになった。人の手でやる掃除は清々しいものがある。
 お蔭で、いつお客さんがあっても心配はない。そんな訳でルンバ君は暫くお蔵入りをなっていた。
 丁度そんな折、東京にいる娘が帰ってきて、掃除の話になった。娘はルンバが欲しくて仕方がなかったが、10数万円もするので、思い悩んでいたそうだ。渡りに船と、ルンバ君は早速東京へ貰われて行く事になった。
「わあ~、何を節約して買おうかと思っていたの。やっぱり来て良かっ~た」と、娘の喜びようは、私にとっても気持ちの良いものだった。
 しばらくして娘から電話が、かかって来た。
 犬のアンが、突然の闖入者を怖がってけたたましく吠えるらしい。でも娘は、掃除をしなければと言う強迫観念から解放されて楽だと言う。私の遺伝子が、娘にも受け継がれているのだろう。娘も掃除が嫌いなようだ。


 さて今頃あの貰われていったルンバ君はアンと仲良くしているのだろうか。もの言わない、ルンバ君をちょっと不憫に思う秋の夜だ。





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