創るcollaboration 第5回コラボレーション企画
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ブルーカラーはブライトカラー

今村 とも子

 本日は花の土曜日。
 会社の食堂で服のお直しを開業する日である。土曜日は、出社する人が少なくこれ幸いに始めた。もちろん、ただ。

 きっかけは、親切の押し売り、押し付けだ。
 私は以前から社内の男の人達の服が気になっていた。いつまでも破れたままなのだ。思い切って「直そうか」と声をかけてみた。
 すると、あの人もこの人も作業服を持ってきて、嬉しいけどその数の多いのには驚いた。

 釦(ぼたん)付けから鉤裂(かぎざ)きまで色々な直し物。やり始めると私は、本業そっちのけで面白い。食堂のテーブルを作業台に、自前のミシン持ちこんでだ。
 内職で使っていたそのミシンは、二十年のブランクを感じさせないほど、調子良く動きだした。
 私もミシンに負けていられない。昔の感覚を取り戻すために、何枚もの作業服が練習台になってくれた。
 あ・り・が・と・ね。

 このミシンが活躍したのは。私達夫婦が一番光り輝いていた時。そんな頃の思い出である。
 結婚して十年。夫は京都から滋賀に住む伯母の家へ子供養子に来て十二年になっていた。
 その頃の夫は、滋賀に移るため転職をしなければならず、工員の仕事を選んだ。
 慣れない土地、慣れない仕事で大変だったと思う。油の染みついた作業服「油の匂いは修一っあんの匂い。労働者の匂い」油まみれで格好は悪いが、嫌いじゃなかった。

 今もお直しの服をバサバサ広げると、あの油と同じ匂いがして、あの頃の主人がそこいらにいる気がする。
 波風が立った事もあったが、亡くなった今あの頃に戻ってみたい。幽霊でも良い、恐くないからもう一度一緒に生活してみたいものだ。

 夫は入社してすぐは、溶接の仕事で作業服は穴だらけ、細かい穴が開いていた。それを塞ぐには、ミシンでたたくのが一番だ。
 ちょうどミシンの刺し子である。直線縫いを行きつ戻りつ、巾を出来るだけ詰めて、繰り返す作業。平坦なところはたやすいが、膝、肘になると一筋縄ではいかない。途中で放り出したいくらいになる。
《もう、嫌。ミシンなんか》
 と、音をあげる頃は大てい不思議に、出来上がっているものだ。

 手間のかかる割に、刺し子のズボンは出来あがっても、見場はいまひとつである。
 そんな親の心情を察してか、長女が青地の作業服に白糸のミシン目を見て
「青い空に、白い雨が降ってるなー」
『子供の発想は、大したもんや』我が子は天才と内心ほくほくする私だ。
 するとそばから夫が「今日のズボンは花丸や。こんなのどこにも売ってないなー。お母ちゃんの腕は一級品やな」との言葉を一緒に思い出した。

 時には振りかえってみるのも良いもんだ。
 その時は『うかっ』としていたが、私の人生って悪いことばかりじゃなかったんだ。
 六十五歳を過ぎても、まだまだ頭も手もフル回転させなければ。

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