創るcollaboration 第5回コラボレーション企画
014

やっぱり犬が好き♡

田村 みさき

 犬が好きだ。
「世界の中心で、愛をさけ」びたいくらい、幼少のみぎりより犬が大好きである。

 三十年ほど前は、現在よりも野良犬や野良猫がはるかに多く存在し、わがもの顔で町を闊歩していた。
 もともと動物が好きな私は、彼らに会うとコンタクトを図るのだが、野良猫に挨拶すると大抵擦り傷を負った。しかし犬の場合は挨拶の仕方さえ間違えなければ、大抵良好な関係を築くことができる。
 長じるにつれ、自然と犬派になっていた。
 中学・高校時代は、学校と家とを往復する通学路に「飼い犬ロードマップ」なるものを脳内に作った。行きと帰りにあちこちの飼い犬のもとに立ち寄り、挨拶するのが常だった。
「結婚後には犬を飼う」のが、いつしか私の積年の夢となっていた。

 迂闊にも若いころの私は、愛媛から出て暮らすという選択肢を思い浮かべていなかった。まさか自分が都会・大阪で就職し、結婚しようとは考えていなかったのである。
 大阪の賃貸マンションで犬を飼うのは難しい。共に愛媛に実家を持つ私と夫には、いつか愛媛に戻るかもしれない可能性もあり、大阪で気軽に分譲マンションや持ち家を持つという気にはなれない。
 かくて結婚して十三年、四十二歳になる現在も、犬を飼う夢はまだ実現していない。

 しかし……。
 そもそも私は「犬とのラブラブライフ」をずっと夢見て、多感な十代の青春をやりすごしてきたのだ。未練たらしいが、その思いはなかなか捨てきれないものである。
 そこで私は胸に抱えた「将来的に飼うだろう犬への愛」を、一旦なんらかの形で昇華させることにした。実際に犬を飼わなくても、バーチャル上で犬を飼育すればよいのである。
 仮想の犬を飼育し始めるとは「あぶない人間だ」と思われたであろう。違う違う、そうじゃない。
 将来もし犬を迎えた折には、こうしてやろう、ああしてやろう。そうイメージしただけだ。

 そして私は、未来の犬へ向けて服を作ることにした。
 尖端恐怖症なのでミシンは怖いが、編み針ならぎりぎり耐えられる太さだ。
 編み物の本をいくつか図書館で借りてきた。三十歳からの手習い、見よう見まねで編み方をマスターし、犬用のセーターを作る。
 未来への犬を想像しながら編み物をする作業は、思いのほか楽しいものである。犬への愛も見事、(注1)アウフヘーベンできた。
 最初は下手だった編み物の腕も、少しではあるが上達した。作った服はどんどん貯まる。
 そこで、オークションで売りさばくことにした。オーダー注文も入ってくる。犬を飼っていないのに、犬飼い主仲間だけが増えて行く。
 残った問題は、犬を飼うことだけである。

(注1)アウフヘーベン……止揚。ヘーゲル弁証法の基本概念の一つ。
 違った考え方を持ち寄って議論を行い、そこからそれまでの考え方とは異なる新しい考え方を統合させてゆくこと。

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